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2025/05/16

【SS】指に囚うが一ツ輪と


 も一つSSです。蛇です。
 学園に投下した本文+αです。
 色には一切関わりませんが、同文をついしょにぽいとしておきます。

 そういえば前作(星に届かぬ~)と時系列がほぼ同じなのに急激に口調が変わっておりますが、
 ①蛇は人前(特に郷里)では仮面に対して敬語口調
 ②星に~の段階ではまだその癖が抜けていない
 この二つが主な理由になっています。
 あと多分、時系列は「星に~」が辺りが暗くなったばかり頃、「指に~」が夜更けかそれを過ぎた辺りです。17日段階では学園は雨模様の天候だったので……。





 男の左手に綺羅と輝くものを見遣り、ノイズは少し目を細めた。
 ベッドに寝転んで何某かの紙片を捲る男に向き直り、椅子の上で膝を組む。
「そういえばお前、意味は知ったのか?」
「意味?」
 ぼんやりと聞き返したインディスラートが、一拍置いて俯せに寝転んだまま振り返る。
 さらりと流れる枯草色の髪から双眸に視線を移し、ノイズは少し首を捻った。
「そう、意味。……というか、さっきから何をそんなに熱心に読んでるんだ」
 男の顔の下、ベッドの上に散らばる紙切れやら冊子を流し見て、仮面を被らぬ仮面が怪訝な顔をする。
 そんな義弟を見返して、インディスラートが身体を起こした。のそりと寝台に座り直し、その縁から両足を下ろす。
「ん……彼の、仕えていた神についてというか」
「は?」
 ぽかんとしたノイズの視線を避けるように顔を逸らして、蛇が一枚の紙片を拾い上げる。
「……イドゥラの所属していた神教、というか。……その教えだとかを……知ってみたくて、な」
 一体何処で手に入れたものか、印刷されたような薄紙を撫でてはにかみ微笑む悪魔へと、ノイズがげんなりとした面を向けた。
「俺には筋肉信者に見えたが……いや、そうじゃなく。悪魔が神を知ってどうする気だ」
「……それは偏見だぞ、偏見」
 前者と後者、果たしてどちらに反応したものか。
 詰るように繰り返したインディスラートに肩を竦めて、ノイズは椅子の背に凭れ掛かった。
「で? 何か得るものでもあったのか?」
「いや……その、さっぱり分からないのは確かなんだが」
 言い淀む蛇を一瞥し、仮面纏わぬ仮面が呆れた顔をする。男の肩にさも愛おしげに掛かる白い衣をじろりと睨み、鼻を鳴らしてそっぽを向く。
 旧主でもあり弟でもある少年姿のそんな態度には気付かぬ様子で、二頭の蛇は「この辺りにも支部があれば通ってみるんだが」、等と実に悪魔らしからぬことを言っている。
「――……そういえば、お前。それの意味は知っていたんだったか」
「ん……? 意味?」
 印字から顔を上げたインディスラートが、ノイズに指差された辺りを確かめようと視線を彷徨わせる。
「指輪」
「指……あ…………」
 指摘されて漸く気付いたのか、紙片を下ろした蛇の悪魔が左手に嵌まる指輪を慈しむように右手で覆った。
 虹色に輝く石を壊さぬようにそっと触れる様子にまた鼻を鳴らして、ノイズが義兄から視線を逸らせる。
「お前、リディエラの折の婚礼はどんな形だった?」
「リディアか? ……さぁ……教会で宣誓と聖句を唱えてから、後はひたすら宴だったような……」
「そこまでの話ではなく。教会での宣誓の折、婚姻を交わすものとして何かしら物のやり取りはなかったのか?」
 迂遠に問うノイズの意図が知れぬままに首を捻ったインディスラートが、それでも記憶を辿る素振りを見せた。
 その態度にまた一つ嘆息を吐き出して、ノイズが少し首を傾ける。
「物といっても……あぁ、そういえば」
 同じように首を捻ったインディスラートが、はたと思い出した態度で服の隠しを探った。小さな焦げ茶色の飾り物を取り出して、手のひらに乗せる。
「そいつは?」
「ん……あそこでは、土地の植物を模した装身具をやり取りするしきたりがあったんだが。俺達の時にはリディアの希望で、耳飾りを」
 ほら、と差し伸べられた手のひらの上では、どんな植物とも言えない不可思議な、やけに丸っこい形の小さな花が連なっていた。
 腰を浮かせるようにしてそれを眺めたノイズが、ふうん、と気のない素振りで頷き椅子に戻る。
「つまり決まった形がある訳ではないのか……道理で」
 知らない訳だと頷く義弟に、インディスラートが腕を引き戻しながら首を傾げる。
「まぁ、な。装身具を贈り合う風習は他にも多いからと、植物そのままの色をした装身具は婚姻関係の誓いでしか贈れないことになっていたが……」
「ん? ということはその茶色いの、本物も同じ色なのか? ――と、そういう話じゃなかったか」
 思わずといった顔で食い付いたノイズが、我に返ったように椅子の背凭れに背を押し付けた。
 控えめな咳払いをして、インディスラートの手を指差す。
「同じだ、それも」
「は……?」
「まぁ婚姻の証としたものか、それを約束とした物かは分からないが、ナ」
 相変わらずぽかんとした顔を見せる悪魔に嘆息し、ノイズは椅子の背を軋ませた。床を蹴って机に向き直ると、数日遅れた勉強に追い付こうと、開いた教科書を覗き込む。
「結婚指輪と婚約指輪。どちらの意味かは、お前の好きな方を選べば良いんじゃないか?」
 どうせ当人は居ないことだしと揶揄のように肩を竦める素振りを見せるノイズを暫し、見詰めて。
 インディスラートが、枯草の色をした眼差しを己の左手に向け直す。薬指を占有する輪をそっと撫で、また、弟を見て。
 ――じわと目元を赤に染める光景は残念ながら、背を向けたノイズには目撃出来なかった。
「ゆ、……人間同士の、指輪、は。……そういう意図、なのか?」
「指輪自体ではなく。指輪を左手の薬指に贈るという行為が、そういう意味を持っているだけだ」
 ベッドにぽすんと寝転がり、皺を寄せぬように抱き寄せた聖衣に顔を埋めたインディスラートが不明瞭に問う。答えるノイズの口調は、対照的なまでにからりと乾いていた。
 そのまま暫し、沈黙が部屋を占め。
「…………自惚れても良いと思うか?」
「好きにしろ。答える奴も既にいないんだから、ナ」
 白い布に口元を隠した所為で酷く不明瞭に聞こえる問いに、やはり答える口調は軽い。
「彼は――イドゥラ、は……他に、そうした相手を作らない、つもりだと」
「さぁな。案外、一夫多妻の宗教かもしれん」
「はは。……それなら、それで構わないんだが……」
 もはや答えを待っていない口振りだと理解して、ノイズは適当な返答を打ち切った。
 暫く部屋の中にペンを滑らせる音だけを響かせていたものの、やがて悪魔の微かな呼気がその沈黙を崩す。
 スプリングの微かに軋む音を聞き付けて、ノイズはようやく首を巡らせた。
「何処か行くのか」
「ん……。鷹を一匹作ってくる」
「そうか……、――はぁ?」
 納得しかけてぎょっとした顔になり、慌てて振り返ったノイズを余所にして。
 白い外套に指を引っ掛け、インディスラートが靴底で床を踏み付ける。
「強く高く飛ぶ鳥なら、或いは……追い付くかもしれない、だろう?」
 控えめに、恥じらうように微笑んだノイズにぽかんとした表情を向けたまま、ノイズが組み合わせていた膝を崩した。
 ただぼんやりと、白い衣を大切そうにハンガーに通してフックに引っ掛け、急ぎ足で階段を下りていく様子をちらりと見る。
「あ、触るなよ?」
「誰が触るか」
 燃やして捨てる位は考えたが、とは言わずに置いた。そんなことをしても燃えずに焼け残る光景しか思い浮かばない。
 苦い顔をしたノイズに気付いた様子もなく、足音は階下へと下り、そして暫く後に、扉の開閉する音が一つ響き。
「…………言わずにおくべきだったか、ナ」
 ほんの少しの後悔を滲ませて呟いたノイズは、やはり肩を竦めるだけにして。
 疲労の籠る呼気を残し、また、机に向き直ったのだった。
 
 
 
 黒い鷹が何処まで飛べたかは分からない。ひょっとしたら何処にも辿り着くことなく、地面に落ちて大地に眠ったことだろう。
 やはり主の居ないベッドをちらりと見て、インディスラートは己の寝台の上に丸まったまま、窓の向こうに降り落ちる雨粒の音に耳を澄ませていた。
 指先は嵌めたままの指輪をぼんやりと擽り、枕元に置いた虹色の石と、指に嵌まる石とを見比べる。
 独り寝は何故だか酷く居心地が悪く、何時からこんなにも弱くなったのかと、そんな自嘲は雨音に呑まれた。
「てがみ……手紙。……か」
 密やかな呟きを吐き出して、二つの石を傷付けないように抱き寄せた。
 手帳には、今は亡き娘に宛てた取り留めもない文章が幾つも残っている。読ませる為ではなく、届ける為ではなく、ただ心に刻み付けておく為に。
 だが、しかし。
「……別れを告げる手紙というのは……何を書いたら良いのか分からないものだな」
 微かな嘆息が音を含み、石の表面をするりと撫でた。
 もっと言えば残る為の手紙すら、その文面をまるで思い付けずにいる。
 二度と会えぬというのなら、連れて行けとねだれば良いのかもしれない。
 だが、拒まれると見越した言葉でねだる勇気は、今の自分には持ち合わせていない。
「…………自分のことより他人のことの方が分かり易いというのも、酷く奇妙な……」
 少しだけ考えて、吐き出した言葉は笑気に末を乗っ取られた。
 万が一。もしも己が学園を去る事を願ったら、傲慢な弟はきっと何も言わないのだろう。
 己のエゴだけで、引き留めるという方法だけで縛ることを好まないノイズなら、清々するとでも言いながら己を追い出すに相違ない。
「……リディアと生別なら、まだ少しは違ったのかもしれない、な」
 密やかに嘆息を吐いた。
 死別した娘とは、こんな風に生きたまま、離別を味わう経験などなかった。
 誰かを恋う経験自体、下手をすればノイズよりも淡い。生きる者は出会い別れるのが常だと、頭では分かっているのだから。
 それがし難いと、こんなにも酷く甘えた考えが浮かぶ経験等は覚えがない。
 いっそのこと郷に戻るか、等としようもなく少しだけ考え込み、またひっそりと溜息を零した。
 スプリングを軋ませてベッドの上に身体を起こし、指輪に口付けを落として虹色の石を抱き締める。
「いせかい、って。耳に馴染み過ぎて、全く訳の分からない話じゃないか……」
 郷里とする場所の特質さゆえか、異世界の住人やら異世界の文化やら、そうしたものは引きもきらせず次々と世界に溢れていた。
 けれどこのまま、この世界では。去ってしまえば二度と会えないのだろうことに疑いは抱いていない。
 何をどんな風に考えれば良いのかも分からないまま、石を衣服の隠しに戻し、立ち上がって机の椅子を引く。背凭れを軋ませながら腰を下ろし、出しっ放しの付けペンと羽根柄があしらわれた白い便箋を見下ろす。
 暫くじっと見詰めた末に、もう一度薬指の輪に口付けをした。
 取り上げたペンをインク壺に浸し、やがて迷い迷いに端々がぶれた字体が、つらと紙の上を滑り出した――――。

 

(初出:20140928)
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